ズボラちゃんの自動化が完成して、ぼくはしばらく画面を眺めていた。
緑のチェックマークが並んだMakeのシナリオを見ながら、次に頭に浮かんだのはもう一つのサイトのことだった。
「株しらべ」も、自動化できるんじゃないか。
今まで手動でやっていた決算記事の執筆。NotebookLMとにらめっこしながら、プロンプトを貼り付けて、記事を作って、noteに投稿する。そのフローが、ずっと頭の片隅にあった。
これを動かし続けるのか、それとも仕組みに変えるのか。
選択肢は明白だった。
なぜ「日経225 × 年4回の決算」なのか。
株しらべの自動化を考え始めて、最初に思い浮かんだのは規模の話だ。
日経225の構成銘柄は225社。日本企業の多くは年4回決算を発表する。225 × 4 = 年間900記事。
最初にこの数字を出したとき、自分でも「頭がおかしいな」と思った。でも考え続けると、これが意外と筋の通った戦略だとわかってきた。
決算速報は「今この瞬間」の情報だ。誰よりも早く、誰よりも深く、誰よりも読みやすく書く。それが一人でできるなら、日経225という日本最大のインデックスをまるごとカバーするメディアが生まれる。
手動では無理だ。でも自動化なら、話が変わる。
AIに「なぜ儲かったのか」を調べさせる。
決算記事の難しさは、数字の羅列だけでは読まれないことだ。
「売上高 前年同期比 14%増」と書いても、読者は「だから何?」と感じる。大事なのは「なぜその数字になったのか」というストーリーだ。
そのストーリーを自動で生成するために、ひとつのフレームワークを使う。
「不満解決」の視点だ。
企業が大きく稼いでいるとき、その裏には必ず「世の中の誰かが抱えていた強烈な不満・課題」がある。その不満を、その企業が独自の方法で解決したから、利益が出た。このロジックを記事の軸にする。
そのためにPerplexity AIを使う。決算が発表された企業の名前を渡すと、ネットの海から「今、この会社の顧客が抱えているリアルな不満・社会課題」を拾ってくる。それをClaudeに渡して記事を書かせる。
「数字」と「世の中の不満」をガッチャンコさせる。それがこのシステムの核心だ。
Claudeに「3者会議」をさせる。
記事の生成をClaudeに任せるとき、ぼくはある実験を思いついた。
1人のAIに記事を書かせると、どうしても「AI臭さ」が出る。「〜と言えるでしょう」「〜が期待されます」という、あの無機質な語尾だ。
ならば、Claudeに3つの役割を同時に演じさせたらどうか。
- 執筆者(ストーリーテラー):決算数値と世の中の不満を繋いで、熱量のある投資ストーリーを書く。
- 大衆(一般投資家):「専門用語が難しい」「で、結局株価は上がるの?」と容赦なくツッコミを入れる。
- 編集長:2人の意見を統合し、AI特有の語尾を全削除。スマホで読みやすい最終稿に仕上げる。
さらにファクトチェッカーを加えて、数字の誤りやAIの「思い込み」がないかを別途クロスチェックさせる。
4者が一つのプロンプトの中で会議を行い、最終稿だけを出力する。
これが「株しらべ」の心臓部になる。
システムの設計図。
全体の流れはこうだ。
【シナリオ1:決算の自動検知】
TDnet(適時開示情報)を常時監視
↓
日経225銘柄のフィルター(銘柄コードで照合)
↓
「決算短信」のキーワードチェック
↓
Googleスプレッドシートに「未処理」として蓄積
【シナリオ2:AI生成・マルチチャネル配信】
スプレッドシートの新着行を検知
↓
Perplexity:企業と業界特有の「不満・課題」を抽出
↓
Claude:執筆者×大衆×編集長×ファクトチェッカーの4者会議
↓
Router(分岐)
├── WordPress:記事として自動公開(SEO・無料)
├── X:決算速報ポストを即時投稿
└── Googleドキュメント:有料note候補として自動保存
2つのシナリオはGoogleスプレッドシートを「順番待ちのバケツ」として連動する。シナリオ1がデータを積み上げ、シナリオ2が1件ずつ丁寧に処理する。
完全自動で回る部分と、ぼくが5分だけ手を動かす部分を分けた設計だ。
「毎日21時にGoogleドライブを開いて、今日一番ドラマのあった決算を1本選んでnoteに投稿する。」
それがぼくの唯一の仕事になる予定だ。
TDnet APIという壁。そして「まず無料から始める」という結論。
システムの設計を詰めていくうちに、データソース問題という壁にぶつかった。
決算情報を自動で取得するには「TDnet(東証の適時開示情報)」のデータが必要になる。どこから、いくらで取得するか。これが思った以上に複雑な問題だった。
選択肢を調べると、こういう状況になっていた。
- 無料の非公式API:商用利用はグレーゾーン。本番運用には使いにくい。
- JPX公式 TDnet API(法人向け):月額が数十万円規模。個人では話にならない。
- J-Quants TDnet アドオン(月額1万1千円):2026年5月に始まった注目サービス。しかし利用規約を精査すると、取得したデータを使った投資分析を継続反復して第三者に提供・配信することが禁止されており、ブログ記事の掲載やB2B速報サービスへの利用が規約違反になる可能性があることが判明した。
つまり、今すぐ使える「完璧な有料データソース」はない。
ここで立ち止まって考えた。そして、ひとつの結論に辿り着いた。
「最初から有料APIにこだわる必要は、全くない。」
理由は3つある。
理由①:このシステムの難所はデータ取得ではない。
本当に難しいのは「Perplexityで正しい不満を拾い、Claudeの3者会議でハルシネーションを制御する」というプロンプトとMake連携の部分だ。そこを磨かずに高額なAPIコストをかけても意味がない。まず10〜20記事を無料で自動出力させ、品質を極限までチューニングする。それが先だ。
理由②:「一般公開しなければ」規約リスクはゼロ。
商用利用がグレーというのは、ブログを公開して広告収益を得たり、Xで配信し始めたりした場合の話だ。Makeで生成した記事をWordPressの「下書き」またはGoogleドキュメントに保存し、自分だけが見るクローズドな環境でテストしている段階であれば、商用利用には問われない。Phase 1はそのフェーズだ。
理由③:開発期間中の固定費をゼロにする。
プロンプトの調整に1〜2ヶ月かかった場合、最初から有料APIを使っていると、それだけで数万〜数十万円の赤字からスタートになる。無料の間に納得がいくまでテスト走行を繰り返す。
というわけで、Phase 1は無料APIでシステムの脳みそを鍛える。本番用のデータソースは、システムが完成してから改めて考える。
シナリオ1、これから構築する。
設計図は完成した。あとは手を動かすだけだ。
まずシナリオ1から作る。TDnetのデータを受け取って、日経225銘柄かどうかをフィルタリングして、スプレッドシートに蓄積する。この部分だけでも動いたら、「株しらべ」の自動化は半分完成だ。
ズボラちゃんと同じく、エラーが出るだろう。また何かに詰まるだろう。でも今度は設計図がある。
前回よりは速く動けるはずだ、たぶん。
また報告しにくる。
【この連載について】
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